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「この平穏が戻ってきてから、何十年も経った。気付けば僕も、80歳を超えてしまった」
真紅達が戻ってきてから約50年。みんなが望んでいた平穏は、しっかりと続いていた。
「時が流れるにつれて、世界は変わっていく。僕の周りも、がらんと変わった」
ジュンは切なげに窓から空を見上げる。
「最初に、めぐさんが長年戦い続けた病気で死んでしまった」
水銀燈はうつむく。約40年前のことだ。
「そして今度はみつさんが、過労死でこの世を去った」
金糸雀はぎゅっと口元を結ぶ。涙を堪えているのだろう。これは約35年前のことだ。
「柏葉、あいつも家族に看取られて、天へと上っていった」
雛苺は目を伏せる。しかし、涙は流さない。これは5年前のこと。
「姉ちゃん、のりも孫に囲まれて、幸せそうに逝った」
ジュンは目蓋を閉じる。肉親の死は今でも辛いのだろう。これは去年のことだ。
「みんな、いなくなってしまった。そして、僕ももうすぐ、この世からいなくなる」
その言葉で全員が息を呑む。ドール達はみんな分かっていた。だが、考えないようにしていた。
「だから、最後にやりのこしたことを、今ここで」
そう言って1つの袋を取り出した。
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