雨の日に

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『彼』のその言葉は誰に向けているのだろう。 私か、自分か、はたまた話の中に登場する人物か。 私がそう考えていたとき、彼はおもむろに持っていた花束の一つを川に向かって投げた。 放たれた花束は空中で解け、バラバラになって川に落ちていった。 川を染める、花の黄色。それは川の流れによってすぐに視界から消えてしまう。 だが、『彼』はそれをずっと見ていた。 既に目の前に花はないけれど、いや、もしかしたら彼が見ているのは花や川ではないのかもしれない。 それは自分か はたまたそれは・・・・ 「そろそろ帰るか」 数分間沈黙していた『彼』はそう言って振り返った。 そこには先程のような意味深な言葉や抑揚はなく、ただただいつもとおりの無表情だった。 「そうだね、早く帰んないと怒られるもんね」 誰に、とは言わない。そんな些細なことでカッカするのは『彼』の周りで一人しかいないはずだから。 だが、次の彼の言葉には少し驚いた。
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