序章

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 古の時代。  未だ人々と『神』と呼ばれた存在が共存していた頃。  世界は三つの存在によって保たれていた。  『光神』エルト=ディーワ。  『闇神』リグ=ベヌス。  そして『調和者』アルタミラ。  三者が共に時を紡ぎ、穏やかに時は過ぎて行った。  光は柔らかく人々を照らし、闇は穏やかに彼らを包んだ。  永遠に続くかと思われたこの平和に、だが、ある時綻びが生じた。  人々が炎を手にしたのである。  明々(あかあか)と燃える炎は闇を侵食し、その力を削いでいく。  それまで保たれていた均衡が崩れるのに、さほど時間はかからなかった。  人々は貪欲に光を求め、安らぎであるはずの闇を嫌悪した。  調和者たるアルタミラは、幾度となくその均衡を保とうとしたが、それは無為に終わった。  己の無力さを嘆いたアルタミラは、その身を二つに裂いた。  即ち、『白』と『黒』に。  白のアルタミラは、己を嘆き、その姿を消した。  黒のアルタミラは、大地に舞い降り、ある者に蜂起を促した。  そう、閉ざされ消え行こうとしている闇の神に。  暗黒の軍勢は、光の領域に進行し、僅かに勢力を立て直した。  だが、それはあくまでも一時の事に過ぎなかった。  次第に押し返され、後退していく闇の軍勢。  彼らを嘲笑うかのような光の軍勢。  誇り高く気高い闇の王ベヌスが最後に取った行動は、己の命を賭けた『呪詛』だった。  この先、人々が安息を手にする事はないだろう。そう呟き、彼は自ら命を絶ったという。  そして、争いは収まり、大地には平和が訪れた。  唯一、異なるのは、闇の刻。  それまで安息であるはずのその刻は、いつしか『恐怖』へと姿を変えた。  遥か昔の出来事である。
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