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「して、この度のご用件は、一体何でしょうか」
ひざまずき更に頭を垂れるフェルドに、大主エルト=ディーワはゆっくりと歩み寄り、静かな声で告げた。
「闇の都が、賑わっている。新たな闇の王が即位するらしいと……」
予想通りの言葉に、フェルドは無言で頷いた。
折しも春から夏。
一年の大半を雪と氷に閉ざされる大陸の僻地で辛うじて存続を許された闇の民にとって、もっとも忙しく、かつ華やかな季節である。
そして、今年は新たなる王が即位するという。
かつていがみ合った両者は、互いに歩み寄り、双方の領域を繋ぐ街道筋には市すら立つこともあるという。
だが、彼らは忘れてはいない。
戦に破れた闇神リグ=ベヌスの『呪詛』を。
漆黒の闇は、光の領域に住む彼らにとって恐怖以外の何物でもなかった。
悪人が身を隠す場所であり、夜行性の獣が襲い来る時間でもあった。
人々は、炎という便利さを手にする引き換えに、柔らかな闇のゆりかごを打ち捨てたのである。
しかし、フェルドは合点がいかなかった。
光と闇の戦いについては、両親から事細かに聞いている。
その何度も繰り返し脳裏に浮かんだ疑問がある。
それは何故人々は闇を忌み嫌ったのか。
そして、闇神ベヌスは何故不利とわかっていながら蜂起したのか。
そして、最後の一つは……。
「烈将軍。我が名代として、新王の即位に参列すべし」
対立しているはずの大主が、何故その立場を支持するかのように振る舞うのか、である。
表情を悟られぬよう、フェルドは更に深く頭を垂れる。
「人選は任せる。今から文をしたためるので、それを新たなる王へ届けて欲しい」
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