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息を切らし空夜は木々の間をぬって足場の悪い森の中をがむしゃらに逃げていた。
直ぐ近くに聞こえるあの恐ろしい化け物の笑声が耳に入るたびにあせり、あしがもつれた。
空夜は脅えていた、死への恐怖、未知への恐怖。
今までに一度も感じた事もない恐怖に本能だけで逃げていた。
森の中を通る冷たい風も今の空夜には感じる事は出来なかった。
「ヒャッハァァ‼」
声と共に背後に現れたあの化け物が空夜の腕に鋭い爪で小さな傷をつくり離れていく。
こんな事が逃げている間何度も繰り返された。
横に並べば空夜の身長の2倍ほどは有りそうな化け物は簡単に空夜に追い付くが小さな傷を作るだけで直ぐに離れていく。
化け物は逃げる空夜で遊んでいた、木の枝などで傷を作る空夜の体に爪でいくつもの傷を作り、血を見て楽しんでいる様子だった。
いつ殺されてもおかしくないそんな状況で空夜はただひたすら逃げるしかなかった。
いくつもの傷から流れる血は多く、走り続けた足は石のように重くなっていった。
何度も転びながら空夜はそれでも何度も立ち上がり当てもなくただ逃げ続けた。
森を抜け急に視界が開け目の前には沈み始めた太陽に照らされ金色に光る草原が広がった。
地平線まで見えるほどに広大な草原へと、背後から聞こえてくる恐ろしい笑声に押されるよう空夜は飛び出す。
6メートルほど走った所で聞こえた声に空夜は顔を蒼白にする。
「飽きたな」
低く地を這うような恐ろしい声が空夜の耳元で囁かれた。
前方に素早くもう一匹が回り前後を塞がれ、空夜は死を覚悟した。
黄金の草原はキラキラと美しく夕日に照らされる輝いている、その景色を不思議と落ち着いた気持で空夜は眺めた。
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