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地平線の彼方にその片鱗が見えたのが半日前。日が天の半ばを過ぎる頃に、ようやく辺りに緑の木々が増えて来た。
下生えの草を踏み分けながら、彼は背負っている荷物を軽く揺すり上げる。夏にほど近い時期のお陰で、旅路ははかどったが、問題なのはこれからだった。
「……」
先へと目を向けると、奔放に生い茂る木々が森を成しつつあるのが見える。
豊かなこの森には、1つの噂があった。
『森の奥に棲む癒しの王に謁見出来れば、どんな願いも叶う力を手に入れられる』
簡単な条件に壮大な褒美。間違いなくこの噂には、肝心な部分が抜けている。それはおそらくは……代償だろう。何の代価もなく、誰がそんな大きな力を他者に与えるだろうか。
明るく楽し気に見える目の前の森を見上げ、彼は幾度目になるのか判らない溜め息をついた。
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