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緑萌える樹々は、足を進めるにつれて徐々に鬱蒼とした重なりを見せ始める。
下生えが減り、歩くのが楽になる頃には、静寂と仄暗さが辺りを支配するようになっていた。
『この森はおかしい…』
深く被った外套のフードを上げて、青年は回りの気配を探る。やはり、何の気配もない…鳥の声さえも、ない。
道は初めからなかったから、長く誰も訪れていないのだろう。それならば、森で狩りをする者もいなかったはずだった。これまでにも同じように、獣以外は踏み入れていない森を進んだ事はあるが、そういった森や山は野生の生き物で溢れていた。
こんな、しんと静かな事はなかった。
まるで、息を潜めているようだ……と彼は心の中で呟く。
癒しの王とやらは、実は暴君なのだろうか?森に棲む生き物達までが、こうして静まり返るような。
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