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辺り一面が真っ白に見える。明るい日差しに目が馴染みかけて、ようやくこの白が何なのかが判った。
「テュラの樹か…」
頭上の木々の枝が切れ、よく晴れた空が見える。白い蝶のような花が咲き乱れた樹は、道幅一杯に広がっており、道の両脇の長い棘を付けた刺草に触れなければ向こうへは行けそうになかった。
見回してみても他に道はなく、どうやらこの樹を押し分けるか、刺草を掠めながら抜けるか以外に先へゆく術はないようだった。
「……」
青年は白い可憐な花を見つめ、大きく息をつく。自分より明らかに弱いものを傷付けるのは不愉快だった。古びた外套を確かめ、しっかりと頭にフードを被る。青年は刺草を調べ、毒のない種類である事を確かめてから、花の枝の脇の棘の道へと潜っていった。
残された愛らしい花が、不思議そうに揺れ、そのまま樹も花も不意に消えたのを見た者はいなかった。
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