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…呉の黄武五年(226年)五月、首都の建業には暖かい風が吹き、江南らしい温暖で、過ごしやすい季節の訪れを、人々に感じさせていた。 木々は若葉に満ち、生命力を思わせて、それらを見れば、誰もが心豊かになるであろう。 その建業の一画に、呉の名家である、陸遜(彼の名は正しくは陸議であるが、ここでは陸遜で統一する)の屋敷があった。 江南の四姓と言えば、陸・朱・張・顧であり、この土地の名士の家柄である。 まして、先君(孫策)の娘が嫁いだ家ともなれば、知らないものはいない。 今この屋敷で、一人の子供が誕生しようとしている。 その家の主人・陸遜は、その日珍しく、そわそわしていた。 陸遜は、子供が生まれそうだと聞くと、主君である呉王孫権の許可をとり、急いで帰宅してきたのである。 近侍の黄異は見てられずに言った。 「旦那様、落ち着いて下さい。奥様の出産は初めてでは無いのですから」 陸遜は、腕組みをしながら、せわしなく歩いている。 「分かっておる」 顔も向けずに言ったが、その様子は変わらない。
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