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…陸抗の勝利は、呉の群臣達を安心させ、その信頼もますます高まったが、それが良くない方向に出た事もある。 皇帝の孫皓は、この勝利を大いに喜んで気を良くし、何か自信を持ったのか、洛陽などの魏の中枢である、中原に進出することを夢想し始めたのである。 これを聞いた陸抗は眉をひそめた。 「陛下は勘違いをしておられる。もはや我が国に外征する余力など、ないのだ。国を建て直す事こそ、大事なことなのだが…」 陸抗の任地の一歩向こう、河の対岸は晋の領土で、羊コが目を光らせている。 油断のならない状況に、心労が重なり、陸抗はしばしば体調を崩した。 妻の道朋は、陸抗の性格を良く分かっていたから、普段は黙っていたが、あまりに回数が増えたので、数日の休養を取るように言った。 「あなたの体はもはや、あなただけの物では無いのですから、自分で休んで頂かないと困ります」 道朋が真剣な表情で言うので、陸抗は肩をすくめて、渋々承知したのである。
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