認識

3/10
前へ
/43ページ
次へ
また彼は思った。 「前の女店長はひどかった」 「あんたは私をなめていると言って、辞める時は『ここが続かないようだったら何処でも続かない』と遺留された」 啓輔は自覚が無かったのだが、彼はその店長をなめていた。その店長の性別は関係ないのだが、啓輔は長年中途半端な仕事をしている。啓輔自身が中途半端かどうかは別にして中途半端な仕事しかしない人間など誰も相手にしない。 別の言い方をすれば啓輔の前ではみんなが素顔を見せていたのである。そして中途半端な仕事を長く続けて来た啓輔には大抵の仕事の流れが読めるようになっていた。 以前、清掃の仕事をしていた時に啓輔はその職場のすべての場所をまわっていた。 すべての場所をなんとなく眺めているうちにその職場の仕事の流れが分かっていたのである。 だから啓輔は「この店長は仕事が出来ない」と思っていた。 つまりなめていた。しかし啓輔にはその自覚が無かった。仕事の出来ない上司や「俺が、俺が」「私が、私が」という同僚を山のように見て来たし、そういう人たちに仕えたり、そういう人たちの話を聞く事は啓輔に取って当たり前の事になっていた。 もちろん、それは苦痛なのだが、その苦痛も当たり前の事だという認識に彼の中では落ち着いていた。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加