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綾菜ちゃんは息がかかる距離まで顔を近づけると無言であたしを見つめている。
ふだんはうさぎのような小動物のようなのに、たまに綾菜ちゃんは獲物を狙うような目になる。
まさにあたしは蛇ににらまれたカエル状態。
その瞳で見つめられると動けないのだ。
――動いたら
『食べられて』しまうから。
「……足りない」
綾菜ちゃんは独り言のようにそっと囁くと、あたしの唇を自分の唇で塞いだ。
――いや……、あたしは蛇に『食べられる』ことを望んでいたのかもしれないな……。
「……香奈どうしたの? 川瀬さんも大丈夫?」
外からは早紀の声が聞こえる。
ヤバいと思ったけれど、
むしろ綾菜ちゃんはあたしの首に回した手に力をこめ、唇をより強く押しあててきた。
綾菜ちゃんの長いキスは
トイレの水の音が消えるまで終わることはなかった。
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