恥辱のルブ・セタ

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   ゴブリンは剣を振り上げ駆け寄ってくる兵士を盾ごと路面にたたきつけると、戦いに飽きてしまったのか、「ぶしゅるっ」と荒い鼻息を水煙りとともに吹いて屈み込み、足元の石畳が沈むほどの勢いで大きく跳躍した。  「い、いかん………奴を逃すな、見失うぞ!」  石造りの民家の屋根上に飛び乗ったゴブリンを指差して、ブディカンは声を張り上げた。  無傷の戦力が半分にまで減ってしまった連隊のうち、さらに数人を負傷者のためにその場に残してブディカンは追跡を開始した。ただし追跡といっても、屋根から屋根へ渡り歩くゴブリンに振り回されるばかりで、連隊のほとんどがチリジリばらばらに離されてしまう有様だったのだが………。  この時、騒動のすぐ近くで小規模の軍隊が雨宿りもせず行軍中であった。  総勢十六名、甲冑もつけていない軽装備の野戦部隊が護送馬車を率いてゆっくりと大通りを進んでゆく。  「まずいぞ、教会の屋根に移りやがった!」  「店をたため、何を呑気な………扉にカンヌキをかけるんだ!」  大粒の雨の中、あたりがしだいに慌ただしさを見せ始めると、行軍中の誰もが剣を抜き、槍をかまえて自然と警戒体制をとるようになった。  
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