恥辱のルブ・セタ

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   ハタリは正面から接近するゴブリンを迎え撃つかのように走り出すと、襲い来る真っ赤な剛腕を脚から滑り込むことで紙一重でかわし、水しぶきをあげながら股下をくぐりぎわ、ゴブリンの左膝を切り裂いた。思わぬ激痛にバランスを取りそこねたゴブリンは突進の勢いそのままに、脚を滑らせて猛烈に路面に転がる。  そのまま通り向かいの雑貨屋に激突すると、破片を撒き散らしながら頭をふるってヨロヨロと立ち上がり敵を探しはじめた。  ハタリを見つけたその邪悪な瞳は一瞬にして怒りの炎で燃え盛り、盛り上がった全身の筋肉からしぼり出されるような巨大な咆哮は大気を轟かせた。  「私に注意を集中させるぞ、モラレス、あとは任せる!」  ハタリはゴブリンとの間合いを詰めると戦いを仕掛けた。狂ったように振り回される剛腕を鮮やかに剣でいなし、巻き上がる水煙りがハタリの周囲で渦を巻く。剣技に秀でたモラレスでさえ、その華麗な体さばきに改めて目を奪われた。  まるで全身に目があるかのように、剣をひるがえしてクルクル回りながら的確にゴブリンの攻撃をかわしてゆくその姿は、観るものを釘づけにする不思議な魔力さえ感じられた。  怒り狂ったゴブリンの腕が闇雲に石畳へ振り下ろされるようになると、今までいなすことに専念していたハタリの動きが一変、猛烈な攻勢に変化した。 .
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