恥辱のルブ・セタ

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   ことの一部始終を見ていたにもかかわらず、ブディカンは己の目を信じることが出来なかった。  屈強な兵士数十人をもってしても足止めすらかなわなかったゴブリンを、この女剣士は数人の部下を手伝わせるだけで事もなく退治してしまったではないか、まるで現実味のない幕切れにブディカンはかける言葉すら思い浮かばなかった。  降りしきる雨の中、王国駐屯兵たちは傷つき、倒れた者たちばかりだったが、幸運なことに命を落とした者はいなかった。もっとも、長くは持たないであろう怪我人は何人かはいたが、それでも現状死亡者がいないのは不幸中の幸いといえるだろう………衆人監修のなかで仮にも王国の兵士が死に様をさらすことは、面子の上からも避けねばならなかったからだ。  負傷兵の介護に人手をさく一方、ハタリは置いてきたキルニーの小隊を呼び付けるため伝令を走らせた。  モラレスは複数の兵士に支えられる駐屯兵に歩み寄ると、いったん敬礼をしてから声をかけた。  「当方はこの地の領主、ニコラ・ビレ様の独立領設軍第三討伐隊所属、ハタリ・クウォンバイの部下モラレス・タイべリアスという者。貴殿がこの駐屯部隊の指揮官と御見受けいたすがいかがか?」  ブディカンは脇を支える介護を振り解くと、曖昧な敬礼で答えた。  「………いかにも、当方は王国第八歩兵師団、ゲネブ遊撃隊ルブ・セタ駐屯部隊の、アロゾワ・マニ・ブディカン連隊長である………」  「狼藉者のゴブリンはこの一頭のみで宜しいか?人手がいるようなら───」  「出過ぎた真似をするなモラレス!」  ハタリの恫喝(どうかつ)が雨音に混じって響くと、モラレスは無言のままその場を退いた。 .
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