恥辱のルブ・セタ

11/13
前へ
/89ページ
次へ
   この発言には、負傷者の手当をするハタリの部下たちには腹にすえかねるものがあった。同一領地内に指揮系統の違う二つの武力組織があれば、いがみ合うのも当然のことである。  そこにきてブディカンの見下した発言が火に油を注いだ。駐屯部隊とはいえ王国直轄の軍隊となれば地方領の私設軍など下部組織も同然ということなのだろうが、壊滅寸前の駐屯部隊を救ったのは誤解のしようのない事実なのだ。それを感謝こそすれ、邪魔者扱いのうえ田舎軍隊呼ばわりされては簡単に引き下がれるものではない。  「ヤロウ、黙って聞いてりゃ言いたい放題ぬかしやがって」  小隊長のジョノが怒気もあらわに立ち上がった。それを見た部下たちも次々と立ち上がり、足元のおぼつかないブディカンを一斉にニラミつける。  「止めろ、お前たち………粗暴な行動は領民の心象を悪くするだけだ、ビレ様の顔に泥を塗るようなまねは許さん」  ハタリの語り口は雨音に掻き消されてしまいそうなほど穏やかなものであったが、そこには部下と同じく自分も腹を立てているという意志表示が含まれていた。  ブディカンは冷え切った体を縮こめると、くしゃみをする。  ハタリは氷のような冷たい一瞥(いちべつ)を投げかけると、撤収の号令をかけた。ブディカンのみならず、田舎軍隊の手助けをそれほど歓迎しないのは、仲間の手が廻らずまだ水溜まりで寝そべる負傷兵も同様だろうと思われたからだ。  ハタリたちが隊列を組み直して引き上げようとした、その時……… .
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加