恥辱のルブ・セタ

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   「検分、ですと?」  ブディカンは理解に苦しむ返答に一瞬怒りを覚えたが、ここで話しを長引かせるより部下たちを雨の中から移動させるのが優先だった。  「事情があるようなので好きにされるがよろしい………ただし、ビレ卿の部隊が去ってからにして下さい、これ以上の問題は御免ですぞ」  「税金は納めておるのにか?」  「かないませんな」  シェオイ卿と呼ばれるトプカ人は傘のしたで奇妙な表情をつくり、お付きの者を従えてゴブリンの首無し死体に近づいていった。途中ハタリたちとすれ違いざま、トプカ人は彼女の顔をのぞきこんだ。  「何か用か、トプカ人」  「失礼、鬼退治の女傑の御尊顔を拝したいと思いましてな………ふむ」  「気が済んだか?なら、とっとと失せろ。通商連合なぞと懇意にする気は無い」  ハタリはそれだけ言うと隊列を乱すこともなく、雨の中を去っていった。シェオイ卿はその後ろ姿をしばらく見つめていたが、すぐに興味をうしなったのか、きびすを返すとゴブリンの死体へと歩き出した。  「………ハタリ・クウォンバイか………ふん」  シェオイ卿は何やら私案げに一人語ちると、足元に転がる生首を蹴っ飛ばした。検分するでなく、標本をとるでもなく、トプカ人は日没も近い雨空のしたで立ち尽くしていた。  一連の騒動の幕切れは、こうして訪れた。 .
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