変動の兆し

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       *  後のユーラシア、コルドバ大陸の西方に位置する大国ラグナムの辺境あたりで盗賊が虚勢をはるとしたら、土地の領主か王国の傭兵部隊などに本腰を入れさせないようにする必要がある。  奪い過ぎず殺し過ぎず、かといって名前が売れてなければ縄張りの存在自体もかすんでしまう。  要はちっぽけな実力と才覚というものが、盗賊にも求められるのだ。  まったく可哀相なハナシが、『ラゴシ盗賊団』の頭目にはそんなモノは備わっていなかった。  「うちのカシラ、首だけになったら……輪をかけて不細工になったな」  「やっぱりか、あそこまでひどくなると、腹が立って石でもぶつけたくなるな」  捕縛され、手首にはめられた拘束具で自由をうばわれた十名前後の盗賊団の生き残りが草原を行く護送馬車にゆられて連行されるなか、ふたりの盗賊は馬車の先導馬の上にさらされた頭目の生首をみてボソボソとやり始めた。  脇をかためる騎兵に脅されて畏縮してしまう姿は、なんとも盗賊には似つかわしくない喜劇のようだった。  ラグナムの南方領アスヴェン地方に、王族とも少なからぬ因縁をもつ領主ニコラ・ビレが王国の駐屯軍と分けて私設軍隊を召し抱えているのは当然といえば当然のことである。  
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