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昨今、近隣諸国の戦火を逃れてラグナムに流入する難民の数が増えるにしたがい野党盗賊のたぐいが辺境で目立ちはじめ、領地の荒廃をいち早く危惧したニコラ・ビレは自前の軍隊を動かして早々に討伐行動を開始した。
多くは食いつめた傭兵崩れや徒党を組んだ逆賊が相手であったが、稀に、見かけによらず機動力のある正体不明の精鋭を相手に戦うこともあった。
そんなことが続くうち、どうやら世界の情勢が不穏な動きを見せ始めていることに、ビレならずとも討伐隊の何人かは気付きはじめていた。
第三討伐隊を指揮する女傑、ハタリ・クウォンバイもそんな一人である。
短く刈り込んだ黒髪に引きしまった身体は女性である事を否定するかのようだったが、猛々しい姿は決して彼女の美しさを台なしにするものではなく、かえってその美貌を際立たせている。
「隊長、このような連中などを捕まえて護送するほど、村長の話しを信用なさっているのですか」
馬にまたがる彼女に、となりの駿馬から副官のモラレスが声をひそめて語りかけてきた。
「何度もいわせるな……現状、ビレ様が必要とされているのは、易や予言などで金品を巻き上げるエセ魔法使いではない。汚らわしい悪魔どもと血の盟約を交わしたサバトの主催者なのだ………お前なら知っておろう、いま城内にて逗留(とうりゅう)されているビレ様の姪が、そんなたぐいの御力をお持ちになっておられることぐらい」
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