49人が本棚に入れています
本棚に追加
「ルブ・セタの街というわけか、確か通商連合の支部があるはずだ」
「なんとまあ………あいつらにとっては灯台もと暗しではないか。衛兵どもが嗅ぎつける前に回収しておこう」
マーリンがそそくさと歩き出してしまうのを眺めたまま、グラはムッとした顔を造った。
「俺は久々の大物がいるといわれてフクロウの長話しにまで付き合ったんだぞ、こんな街中のどこに化け物がいるというんだ………それともセブロンの遺産とやらが強敵だとでもいうのか?ふん、民家に収まる強敵とは恐ろしくて小便をもらしそうだ!」
「そんなに怒るな、これからお前が剣を交える相手は間違いなく、これまでで最も手強い敵となるだろう。セブロンの遺産はそこにたどりつくための鍵だ、その証拠に我らの未来は予知魔法の触指にかすりもしない………夢ゆめ気を抜かぬことだ」
しばらくマーリンの目から視線をそらさずにいたグラだったが、あきらめたように地面に唾を吐くと左手で荷物を掴みあげた。
足早に通り過ぎて行くグラを尻目にマーリンは、フクロウ………ラル・ニーヴンの飛び去った方角を再び凝視した。その瞳はいつの間にか黄金から澄んだ黒眼へと変化している。
予測不能の未来、セブロンの遺産の出現、そして波乱の兆しを見せる大地………間違いなくどこかで強力な魔法使いが暗躍しているはずだった。
問題なのは、この世界のどこを捜してもそれほどの魔法使いは彼以外に存在しないことだ。マーリンの不安を象徴するように、顔に冷たいものが当たった。空は晴れている。
「………面白い、真理の探求者に難題を吹っかけるものがいたとはな………久々に力比べといこうではないか!」
こうして二人は一路、ルブ・セタの街を目指すこととなった………。
最初のコメントを投稿しよう!