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―??年前―
「ありがたい、狼といえどもアンタは私の恩人だ」
男は、山の上で障子4枚ほどの体躯の狼と対峙していた。
目玉は自分の顔ほどもあり、目の前にある口では荒い呼吸が繰り返される。
牙なんか自分の腕ほどもあり、いつでもパクリと食べられてしまいそうだ。
「恩人よ、何を望む? できればこの命以外で頼みたいものだ」
黒く、長い髪を無造作に結っている男は、穏やかな表情で言い放った。
食べられるとは、思っていないのだろうか。
「ならば――」
狼から人語が飛び出た。
あまりに美しい、しかし冷ややかな女の声だった。
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