わん。×1

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 ―現在―  冷たい雨の日だった。  父は早朝から大きな箱を持って出掛けていってしまったため、母の小言に付き合わされるはめになった。  よろず屋と言う職業のせいで大好きな父はまたいない。それだけで気分は落ちていたのに、まさか母が説教を始めるなんて!  番傘も持たずに家を飛び出し、母の声が遠くなるまで走った。  最初は雨に濡れるのも楽しかったが、着物もビショビショに濡れ、気分は最悪。 「かさをさしてくればよかったわ」  後悔先に立たず。悔やむ少女の名は翠月(すいげつ)。  年は5歳、ただいま今月最大であろう、うんざりな気分を満喫中だ。  黒く、長い自慢の髪も肌に張り付いて異様に腹が立つ。
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