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先輩はあまり危機感というものがない。
だから夏休みやら冬休みの課題やら春休みの補習プリントやらも最後の最後まで手をつけないで、結局新学期前日の最終日には泣きながら俺に怒られるはめになるのだ。
それでもやっぱり先輩には危機感というものが芽生えない。
アホだ。
とりあえず俺の恋人はアホなんだ。
だからしょうがない、しょうがないんだよ。
そう自分に言い聞かせてもやっぱり気にはなってしまう。
だって、このまま今まで通りに生活していたら困るのは先輩だろう。
仕方ない、今日こそビシッと言ってしまおう。
俺の平穏のためじゃない。
あくまで先輩のためだ。
そう、俺は誰に言うでもなく言い訳をして、先輩からの電話に出た。
『いふいふ?』
「はい、もしもし。どうしたんですか先輩。電話だなんて珍しいですね。
っていうかififって…」
『…杉井君?』
「杉井ですよ。何の用ですか?三文字以内でお願いします」
『あそぼ』
きっかり三文字でそう楽しげに言ってきた先輩に俺は肩をすくめた。
ほら、やっぱりこの人には危機感などカケラも存在していない。
「駄目です」
先輩のためを思ってそう答えたのに。
携帯電話の向こうからは『は?』という不服そうなが聞こえてきた。
確実に彼女は気分を害してしまったようだが、そんな事とりあえず今重要視すべき事ではない。
「先輩、今年もう三年生でしょう?」
『そうだけど。それが何?』
「だから、受験生でしょう?」
『そうだけど。それが何?』
どうしてこの人ここまでアホなのかなぁ。
そしてどうして俺はこんなアホな人と付き合っているのだろう。
瞬間的に頭に浮かんだ疑問については深く考えないようにして俺は溜息をつく。
はぁ、と口から漏れたそれは相手にも聞こえたようで『何、幸せ逃がしてんの?ムカつく』というよく分からない不満が返ってきた。
この人の頭の中の構造は俺には理解不能だ。
というか溜息で幸せが逃げるってなんて懐かしい。
「だから、受験生なんですから俺と遊ぶ時間があるくらいなら勉強してください」
『…だってまだ四月だよ?』
「先輩、馬鹿なんですから今からやらなきゃ間に合いませんよ」
『誰が馬鹿だって?え?
…えー、やだね。じゃあ今年一年間は遊んじゃ駄目って事?』
「そうです」
『最低だ!君、最低最悪だよ!
私の楽しみをとるつもりなの!?』
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