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楽しみをとる…というわけでもないのだが。
とにかく、先輩の頭の悪さはそれはもう大変なもので。
正直一つ年下の俺より勉強が出来ないわけで。
高校にちゃんと進学出来るかも分からない状況なわけで。
そりゃあ絶対遊んじゃ駄目!っていうのは言いすぎだと思うが、これくらい言わなきゃあの人は多分勉強なんて全く手につけないと思う。
ので、仕方ない。
これは仕方ないんだ。
だから俺が相手に逆切れされる理由なんてないはずだ。
なのに何故逆切れされてるのだろうか。
それは、俺じゃなくて先輩の方こそが最低最悪だからである。
「これも先輩のためなんですって」
『だって一年間我慢したとしても、来年は君が受験生じゃん。
って事は、合計で二年間も私は君と遊べないって事?』
「いえ、来年は遊べますよ」
『は?どうしてさ?』
「俺、頭良いんで」
プツッ ツーツー
いくら俺の言った事がムカついたからといって。
何も切る事はないだろう。
突然音をたてて反応がなくなった携帯電話を見つめ、俺はもう一度溜息をついた。
しばらく辺りには穏やかな沈黙が流れる。
とりあえず、ストラップが何一つついてないつまらない携帯(と前先輩に言われた。余計なお世話だ)は机の上に置いといて。
昨日買った文庫の続きでも読むか、と立ち上がる。
途中に挟んであったしおりを抜き、俺はそのページから文字を読み始めた。
いざ、めくるめくファンタジーの世界へ。
数分後。
物語の中盤でしかも戦闘シーンでかなり盛り上がっていたというのに、俺の読書の時間を妨害するべく音楽が耳に届いてきた。
机の上に置かれている俺の携帯がぶるぶると振動している。
仕方なしに手に取ると『着信:先輩』とディスプレイに表示されているのが目に入った。
通話ボタンを押し、耳にあて
「はい、もしもし」
と言ったら鳴り響いていた音楽は途切れ、代わりに聞き慣れた先輩の声が耳に入り込んでくる。
『なんで、かけ直してくんないわけ?』
なにやらご立腹のようだ。
「はい?」
『だ、か、ら、何でかけ直してくんないわけ?
彼女が一方的に電話切ったら、かけ直してくるのが彼氏ってもんでしょ?』
はて、彼氏とはそういう役職のものだったのだろうか?
小さく首を傾げた俺の様子など知らない先輩は。
はぁ、と大きな溜息をついてみせた。
待て、溜息をつきたいのはこっちの方だ。
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