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「高校行けなくて困るのは先輩でしょう?」
『君と遊べない方がもっと困るよ!』
この人何言ってるんだろう?
一度で良いから先輩に「ねぇ、常識って知ってますか?」って訊いてみたいが、尋ねたところで俺に返ってくるのは先輩の拳か蹴りだろうと思うのでその夢は叶わずに終わりそうだ。
「せーんぱい。
あんまり馬鹿な事言わんでください。
なんかいっきに脱力しちゃいましたよ」
『君は私と遊べないのが悲しくないわけ?』
「あー…安心五割喜び二割寂しさ二割その他一割ですね」
『な ぐ る よ ?』
椅子に座って文庫本を捲りつつ話を聞いていたらもの凄く怒気を含んだ声で脅されたので「えぇ?…いや、冗談ですから」と苦笑する。
殴ると言ったら本当に殴る人なのだこの人は。
妙なところだけ有言実行で本当困ったものだ。
でもさすがに今のは俺も言い過ぎたので、しょうがない、最後の手段として俺は口を開く。
「先輩」
『何さ?』
もし第一希望校に受かったら、何でも一つだけ言う事聞いてあげますよ。
なるべく優しげな口調で呟いた言葉に嬉しそうな先輩の声が返ってきた。
『それ、本当?』
こんなところで嘘をついてどうするのだ。
「ええ」と一度頷いた俺に彼女は『きゃあ!』と奇妙な奇声をあげた。
どうやら嬉しくて飛び跳ねたらしい。
床が先輩の体を受け止めた小さな振動が、電話を伝い俺のところまで伝わってきた。
この人はいったいどこまでガキっぽいのだろう。
『やった!ちょうど今の家に飽きてきたところだったんだよね』
「待て、買わんぞ!?さすがに家と土地は買いませんからね!?」
『じゃ、私頑張る!
ばいばい!』
不吉な言葉を残し先輩は一方的に電話を切ってしまった。
まさか本当に俺に家を買わせるつもりなのだろうか。
いや、まさか。
さすがの先輩でもそこまではしないだろう。
しないはずだ。
しないと信じよう。とりあえず今は。
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