肩車ドライブスルー

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人間誰しも寝過ごしてしまう事はあるわけで。 それは勿論俺も例外ではないわけで。 時刻は一時二十分ちょい過ぎ。 待ち合わせ時間は多分一時。 すまん、多分ではなく確実に一時。 遅刻だ。 完全無欠にどこからどう見ても遅刻だ。 つまり俺は現在進行形で恋人を待たせているのである。 しかもただの恋人じゃなくてワガママで毒舌で以下略。 とにかくこれ以上遅れるのは俺の命に関わるので自然と走る速度は速まる。 部活は帰宅部の俺ですもの、やっと待ち合わせ場所に辿り着いた時は息も切れ切れで。 心の底から俺は全国のマラソンランナーと陸上部を尊敬した。   待ち合わせ場所は人が賑わう商店街を少し行った先にあるまるで別世界のように静かで寂しい公園。 雑草に囲まれた錆びたブランコしかないそこにいつも先輩は座って俺を待っている。 今日もぎぃこぎぃこと音を鳴らし、前後に揺れるふわふわとした金色の髪。 相手の前に立てばその金糸を揺らしながら少女は顔を上げた。   「すみません。遅れました」   ぱちくりと相手が一度大きな瞬きをする。 しばらく流れる沈黙。 ハッと何かに気づいたように先輩は口をあんぐりと開けた。   「き、君ってば時間にルーズすぎるよね。待ってる方の身にもなってよ」   …忘れてたな。 今、確実にこの人俺との待ち合わせ時間を忘れてたな。 遅刻した自分の事を棚にあげて小さく苦笑した俺を訝しげに見つめ先輩はがきょんと鈍い音をたてたブランコから立ち上がって、俺と対峙する。   「さってと、じゃ何か食べいこうよ。私お昼食べてなくてさぁ。 あ、もちろん遅刻した君の奢りだから」   そういえば俺も昼過ぎまで(というかついさっきまで)寝てたわけだから、昼ご飯は勿論朝ご飯も食べていなかった。 意識してしまったら何か急に腹が減ってきた気がする。人間の仕組みってよく分からん。   「えぇ。高いやつは無理ですよ」 「モス!モス!」 「中学生の金銭感覚でものを言ってください。さぁ、ほらマックが先輩を呼んでますよー」 「やだね!今日はモスの気分なの!オニオンリングが私を呼んでるの!」 「はぁ?呼んでるわけないでしょう。相手は無機物ですよ。先輩、耳大丈夫ですか?」 「君が言えるセリフじゃない気がするのは私だけかなぁ?」 「先輩だけです」   不服そうに先輩はしばし口ごもったが、ビシリと人差し指で俺を指さすと多分半ばヤケになりつつ叫んだ。   「じゃあ…キャビア!」
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