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「はい?」
反射的に口から間抜けな声が飛び出た。
この人はどこまで支離滅裂なんだろうとしばし思い悩んでしまったほどだ。
拗ねたようにそっぽを向き腕を組んだ相手の頬は膨れている。
「だからぁ、キャビア!またはトリュフ!それかフォアグラ!」
「先輩落ち着いてください。支離滅裂すぎて俺がついていけません」
何が悲しくて恋人に世界三大珍味を強請られなきゃいけないのだろう。
俺は一瞬だけ先輩の頭の中には小宇宙でも広がっていて宇宙人でも住んでるのではと失礼な想像を働かせてしまった。
「私はじゅーぶん落ち着いてるし!なんで君年下のくせに年上ぶってるわけ?
だいたいなんで久々のデートに遅れてくるかなぁ?」
なんで逆ぎれしてるわけ?
こっちが問いつめたいくらいだった。
ぎゃーぎゃー喚く小さいのの頭を仕方ないのでぽんぽんと叩く。
「あのですね、あんまりワガママ言ってると怒りますよ。
それに、先輩、待ち合わせ時間忘れてたでしょう?お互い様です」
時間を知っていたのに遅刻した俺の方が明らかに悪いので、全然お互い様でもないのだが、さすがに言われっぱなしなのも癪なので言い返すと、先輩の顔が驚愕に塗り固められた。
本人は多分今切羽詰まっている状況なのだがその顔がかなり間抜けで何か変に可愛いので俺は必死に自分の口元を押さえ笑いをこらえる。
しばらく口を意味もなく開閉させていた先輩が心底意味が分からないという風に大きく首を傾げた。
「はぁ?」
先輩の足が小さく地団太を踏む。
軽快に上下に動いたその足を見て、あれー?この人もう中学二年生じゃなかったっけー?なんでこんな子供みたいな事してんのー?とどうでもいい疑問が俺の頭を一瞬だけよぎった。
「誰がいつ忘れたのさ?」
「はい?だって先輩俺が遅刻したって言った時不思議そうな顔したじゃないですか」
「あ、れ、は、時間感覚が分からなかっただけだし!」
「は?何でですか?二十分も時間がたってたらおかしいと思うでしょう?」
「だって久々なんだよ!?最近春休みの課題が忙しくて全然デート出来なかったじゃん、私達」
「だから何ですか?」
「…だーかーらー」
ぴくりと先輩の眉が動いたかと思った次の瞬間には俺の側頭部には先輩の蹴りがヒットしていた。
「久々だから浮かれすぎて二時間も前に集合場所にきちゃったんだってば!」
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