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「クラス別々になっちゃったね」
春といえば四月といえば新年度といえば学校といえばクラスがえ。
大切な友人や好きな人と同じクラスになれるかどうかみんなドッキドキのバックバクだと思うんだけど、私の寂しげな呟きに隣に立っている男は何か頭のおかしいものを見るような目でこちらを見つめてきただけだった。
愛しの彼女がクラスが別れてしまった事を嘆いているというのに慰めの言葉も愛の言葉もなしとは。
なんて最低なやつなんだろう。
そんな思いを込めて「もう君なんか地球上から消滅しちゃいなよ」と言ったら今度はどこか哀れむような瞳に見つめられてしまう。
「先輩。あの、先輩は俺にどうして『先輩』と呼ばれているのか理解してます?」
「は?そんなの私が君より年上だからに決まってるじゃん。君、バカなの?」
まさかそんな当たり前な事訊かれると思っていなかったので拍子抜けしてしまった私の目の前で私の彼氏である後輩は頭を抱え顔を逸らし「あいたたた~」と呟いている。
何なんだいったい。
今日から二年三組の生徒になるその男は、今日から三年五組の生徒になる私の頭をぽんと叩くように撫で言い放った。
「ですから、俺と先輩が同じクラスになる可能性は最初っからありませんので」
「杉井君が私のために不可能を可能にし、飛び級してきてくれると私は信じてたのさ」
「星占いすら信じた事のない人がよくもまぁ」
呆れたように溜息をついた相手に、星占いは関係ないだろうとツッコミを入れようとして…やめた。
何だか無性にやるせない気持ちが胸を巣食ったからだ。
考えてみたらすぐ分かる事だし、考える意味が分からないような事だけれど。
それでもぼんやりと私は考えて、うーむと腕を組んだ。
「世界中の時計という時計を全て壊したいかも」
私の言った意味が理解できなかったのか目の前にいる影は心底支離滅裂なものを見る目でこちらを見つめてきている。
その右頬に華麗に拳を繰り出して笑う私に、じわじわと心を巣食う魔物は容赦をしてくれそうになくて思わず溜息が漏れちゃうね。
一年間という壁は案外大きいものでなんだか泣いちゃいそうだよ。
「ねぇ」
「はい?何ですか?」
「好きだよ」
だって来年、私ここにいないし。
あー、もう本気で飛び級してこいよ杉井君。
そう思って未だ何を言われたのか分かっていなように呆然としてる彼の頬を私は軽く抓った。
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