暗い海の底。

2/2
前へ
/2ページ
次へ
ヌルイとかアツイとか。 欲することを止めて久しく。 ここは暗い海の中。 か弱い星のような塵が静かに漂う。 縄跳びの縄でがんじがらめの縫いぐるみがソファーに座っている。 この世界に居るのは陰鬱だ。俺の生き方が間違っていたのだろうか。 それにしても… …恐ろしい世界だ。 例えば… 皆が大空へ一斉に羽ばたき、一枚の美しい絵画のように泳いでいるのに… ワタクシ一人だけぶざまな人という塊である状態。 例えば… 皆が美しい陶器へと変貌を遂げて、辺りを華やかに彩っているのに… ワタクシ一人だけぶざまな人という塊である状態。 闇の中、手を伸ばす… そうすれば、手が届くと思っていた。 でも、それは自身の思い込みでしかなかった。 なんて味気ない。 ここは暗いな。 がんじがらめの縫いぐるみが、ソファーから立ち上がっていた。 そろそろ帰る時間なのかい? がんじがらめの縫いぐるみは無言で私を見つめている。 ここは暗い海の中。 か弱い星のような塵が静かに漂う。 なぜ、再びここへ来てしまったのだろう? ビデオの様に何度も再生して擦り切れてしまった記憶。 あの時感じた後悔も悲しみも、今は微かな痛みを感じるのみになってしまった。 揺らいだ視界の中、座るものを無くしたソファーがぽっかりと口を空けている。 ここは静かだな。 がんじがらめのワタシは暗い海の底で佇んでいる。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加