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気のせいだろうか。 いや、気のせいではない。 絶対に…。 徐々に近くなっている自分との距離に気付かないはずもない。 反射的に後退する足は、何か不吉な予感がする前兆だと信じて疑わない。 壁へと追いやられ、身動きが取れなくなったのを満足気に見る志貴は得体の知れない生物にしか見えなかった。 「ふ、深いって意味…」 「わからないこともないだろ?」 これは、あの、ほら、あれの雰囲気になる前触れだ。 と、これや、あれで頭のなかが慌てる辺り、そういう事なのだろう。 「わか、りたくない!わかってたま…――っ!」 最後まで言わせてくれないのはいつものこと。 でも、今回は少し違うみたい。 「ん、…はっ、やめ…ろ。」 「やめたら、ちゃんとキスさせてくれる?」 「なんでそうな、…っ、ふ…。」 茜が口を開くと滑り込む熱を持った舌は、口腔を知り尽くしたように動きまわり、絡ませ合う。 引きずりだした茜の舌を歯で軽く食むと普段感じることのない感覚に力を失った身体は志貴に預ける形となった。 「や、いや…だ。志貴、し…あ、っ。」 「茜、逃げないで。」 口付けを交わせば先に進みたくなる。それが愛しい人なら尚更のこと。 でもそれは互いに想い合っていることが前提。薄く開いた瞳に写る茜からは感情のわからない涙と、強く閉じる瞳。 恐怖を感じているのだと直感した。
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