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『睡骨か霧骨に手当てしてもらっときな。煉骨のところに寄ってからおれも戻るから』
蛮骨の指示に、蛇骨は肩を落として睡骨が待機する陣に戻った。
「間合いがあるからと無防備に振り回してるから簡単に狙いを付けられるんだぞ」
「偉そうに説教かよ、てめぇが」
睡骨の苦言への口答えも、いささか勢いがない。
(大兄貴の助太刀がよほど堪えたらしいな)
睡骨はそれ以上言い立てず、手当てを進めた。
今の睡骨は医者の方ではなかったが、矢傷の手当てくらいは出来た。
蛇骨は傷口に触れられる度、漏れそうになる呻きを噛み殺した。
包帯を巻き終わると、じろり、と睡骨を睨みつけ礼も言わずに、柱にもたれた。
「化膿止めを飲んでおけよ」
「………」
睡骨の言葉を無視して、蛇骨はきゅっと瞳を閉じた。
いつもの心地よい疲労感がない。
何か重しでも括りつけられてるんじゃないか、と思うくらい、体も心もずるずると落ちていきそうだ。
大兄貴、きっとがっかりしちまったんだろうな。
煉骨の兄貴のところ寄ったら帰ってくるって言ってたのに……。
何かに引きずり込まれるように、蛇骨は眠りに落ちた。
その様子を見届け、睡骨はそっと小袖を重ね敷いた床へ運んだ。
報酬すら出し惜しみする領主は、まるで足軽扱いに、この小袖のみを寝具によこして来た。
案の定、蛇骨の落胆と不平のあげつらい振りは相当なものだった。
その喧しい口を閉じさせるために、皆は小袖の殆どを蛇骨に回してやっていたのだった。
睡骨は更に、蛇骨が不用意に寝返って傷を痛めぬよう、背に丸めた小袖を突っ込んでやる。
(憂さ晴らしに買った小間物で自分の首絞めて、戦はコレじゃあな…)
自称の斬りこみ隊長の名もズタズタで悔しかろう。
苦しげに眉を寄せて眠る姿に団扇で風を送ってやった。
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