壱.

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  「山城を攻めてくるとなると、足場の悪いこの堀へ誘導させ、そこを叩くつもりでいるらしいが…」 「それの助っ人って話だったな」 「だが効率はよくねぇかと…」   煉骨が蛮骨と軍議の概略を確認する傍らで、蛇骨は板間をごろごろ寝転び、ふて腐れている。 「しけてやんの。おれら先峰にすりゃさっさと片が付くっつーの」 「まぁ、そう言うなよ。なんつっても後戻り出来ねぇんだしよ。それに巾着なんかに入れて、うっかりおめぇの目につくところに置いていたおれも悪かったんだ」 蛮骨はにやにや笑った。 「その言い方はねぇよ…」 蛇骨はすっかりしょげ返ってしまった。   そんな蛇骨を横に蛮骨は煉骨と確認を進め、 「よっしゃ、そいつは蛇骨に任せるか。一応『斬りこみ隊長』だしな」 「ほんとかっ!!やったぁ蛮骨の兄貴大好きっ!!」 ぱぁっと顔を輝かせ、蛇骨は跳び起きた。   たった今ふて腐れ、しょげていたのもどこへやら。 蛮骨の言葉が嬉しくて、よく日に焼けた首筋に飛びついた。   与えられた任は、蛇骨には名誉挽回の絶好の機会であり、憂さ晴らしにぴったりであった。       そうして、今に至る。   (後ろ取るっつーのは楽しみ半減だけど仕方ねぇか)   何と言っても大兄貴の指図は特別なのだ。 どんなちょっとしたことでも役に立ちたい。   その思いが先走り、むやみに動いてしまうことで当てが外れたり、裏目に出たりしても、本当に蛮骨の兄貴の為にはなりたいのである。   (時々あの癖がでちまうけどさ…) ぺろ、と内心舌を出した。   あの癖とはもちろん、好みの男を見つけて狩ることである。 そして実際は時々などという頻度どころでなく、戦場ではしょっちゅうであった。 蛇骨は、蛮骨がそれこそがちょっと頭の痛いことだと思っていることに気付いてもいない。   (あ~ぁ、煉骨の兄貴まだかよ~)   思わず生あくびを噛み殺した時、号砲の爆音が届いた。
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