弐.

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  肩を見遣ると、小袖が裂け、血が滲み出ていた。 背後の第二の陣から矢を射かけられたのだった。 矢が掠めた衝撃に一瞬、足元がぐらつく。   「なろっ!!」   愉しみを妨害された怒りに蛇骨は目を吊り上げ、蛇骨刀をそちらに放った。 だが、刃が届く前に、地響きのような音がして、兵達の絶叫が上がった。   「蛮骨の兄貴!!」   無惨な姿に変わり果てた弓兵達の中に、蛮骨の姿があった。 第二陣に逃げる間も与えず、全てなで斬りにしたのだ。 その剣圧で縦横に地割れができている。 あまりの無情な早業と惨状に、更に陣形を敷いていた敵方の兵は蜘蛛の子を散らすように撤退を始めた。   「逃すかよ!!」 蛇骨のひと声のあと。 逃走していた兵の半数がもの言わぬ姿となった。 「傷はどうだ、蛇骨」 累々と地に伏す骸を前に、怒りに息を上げている蛇骨の傍に蛮骨がやって来た。 傷口を覗い診る。 「べっつに…掠っただけ…あいつらっ」 「遠くを構うな。前だけ叩けば十分だ。本陣もなんで退散したのか、首捻ってやがるぜ、きっと」 含むような笑みを零し、蛮骨がすっと一歩下がり、歩き出した。   まるで蛇骨の背後を庇うように。 蛇骨が不審に振り向くと、いつになく厳しい顔の首領がそこにいた。   (ちっくしょ…!!)   蛇骨は己に歯噛みした。 蛇骨刀の扱いもまだまだだ。 こんな風に蛮骨の兄貴に出向いてもらってるようじゃ……。   喜々として太刀を奮っていたときとは打って変わり、蛇骨は悔しくてならず、すっかり沈んでしまった。 「蛇骨」 背後から呼ばれて、おずおずと振り返った。
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