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電話が終わってもまだ携帯を握り締めている彼をみて、ご馳走様でしたと頭を下げて席を立った。
彼は一瞬不思議そうな顔をして私を引き止めようとしたが、私は店を出た。
夏樹は美奈子の素朴ながらもバランスのとれ、穏やかな顔立ちに美しさを感じていた。夏樹は去る彼女を見て、自分の仕事の事で気を遣って早く立ち去ったのだと思い後悔した。
私は気を遣ったわけではなく、電話番号を聞かれる前に離れたかっただけだ。
高校のクラスメートはさり気なく携帯の話に持ち込んだり自慢の画像を見せたりした後、あ~もしよければ~なんて言って番号を聞いてきた。
断りにくいシチュエーションを作られれば教えるしかあるまい。煩わしい。
私は一人この町をぶらぶら歩くことにした。
咲く可能性が皆無に近い花ならば、咲かせようと努力することもわざわざ花の芽を摘むこともない。それでももしかしたらと期待してしまうかもしれない自分が嫌だから、花があるという存在を忘れる。それが私の一番正しいと思う道だ。
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