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「秀司!宿題見してーっ!!」
県立茜崎高校2年4組。昼休みの現在。
あたしは次の授業で提出する現代社会のレポートを秀司に写させて貰うべく、昼食の菓子パンと珈琲牛乳を片手に教室に走り込んだ。
「またかよッ!?」
こいつ、高城秀司はあたしの幼なじみ。
そして――大事な『犬』。
あたしが小学生のころから容姿、性格、全てにおいて男らしく育てあげてきた。
でもいくら治しても根っからのヘタレは抜けてくれない。
「まったく、秀司君も大変ねぇー」
あたしの後ろから声を掛けてきたのはもう一人の幼なじみ、吉田さつき。
ふわふわとした性格から学年のアイドルとして讃えられている。
告白の数は星の数。だけどさつきはド天然で無自覚に酷い断り方をしているようだ。
「本当だよ!ちょっとは可愛がって欲しいよなー」
「あ、なんだって…?じゃあ撫で回してあげるよ、全 身 ね」
秀司が気持ち悪く上目遣いをしてきたので首が無くなるんじゃないかと言うぐらい頭をギリギリと押してやる。
ぐえっ、と蛙が潰れたようなうめき声をあげた後、あたしに手を叩いて助けを求めて来たから満足気に微笑んで離してやる。
それを見てさつきもクスクスと笑う。
こんな時間がとても楽しかった。
「ところでこんなことしてていいんですか、橘麗奈サン?」
「っと、そうだった。急がなきゃ!」
ぼんやりと思いふけっていたのも束の間。
一気に現実世界に引き戻されると、私はパンを口に詰め込んで宿題を進めた。
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