死んだ

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6月29日 日曜日 「父さん!テレビ始まったよ。」 威勢よく父親を居間へと呼ぶ声。 「おっ。始まったか?」 父親は嬉しそうに煎れたてのお茶を片手に定位置についた。 居間はテレビと父親と兄の声でいっぱいになった。 テレビも終盤。 「雄大。父さんは先に寝るから後、電気とか頼むぞ。」 そう言って二階への階段を上っていった。 6月30日 月曜日 午前6時 階段を音をたて父親が下りてきた。 父親は下りてすぐ異変に気付いた。 早出のはずの兄のバッグがあるのだ。 靴もある。 「寝坊してるのか?」 父親は二階に上がり兄の部屋を覗いた。 だが兄はいない。 再び一階に戻り考えながら風呂場へいくといつも換気のため開けていた扉が閉まっていた。 父親はすぐに開けようとしたが何かのせいで開かない。 右上を見るとテープのような影が見える。 最悪な結果が過ぎる。 父親は体ごと体当たりをした。 扉は壊れ開いた浴室には兄が仕事着を着て倒れていた。 皮膚には血の気がなく目は半分開き、歯茎あたりから出血した跡がある。 激しく腐食したステンレスの鍋。 転がっている空っぽの容器。 つぎはぎに目張りされたガムテープ。 「雄大!しっかりしろ!」 父親は直ぐさま兄を抱きかかえ居間へと運んだ。 父親は即席に心臓マッサージをした。 ヒュッ。ヒュッ。 兄の胸を押す度、口から空気の抜ける音がする。 「雄大!大丈夫か?!」 5分ほど心臓マッサージをしたあと怒鳴るような声で消防に連絡した。 そのあとも一心不乱に心臓マッサージを続ける。 「雄大!雄大!」 何度も兄の名前を呼ぶ。 程なくして救急車が駆け付けた。 救急隊員が専用の機器を取り出し兄にあてる。 「雄大!大丈夫やからな!」 そんな父親に救急隊員はさとすように語りかける。 「お父さん。息子さんはもう亡くなられてます。」 「嘘言うな!ほら、ちゃんと息をしようとしてるやないか?!」 「お父さん。亡くなってても胸を押せば空気の音がするんです。」 もう一人の隊員が風呂場を見て話しかけてきた。 「硫化水素で二次災害の恐れがあるから避難してください。」 「お父さん。すぐに外へ出ましょう。」 「雄大はどうするんや?!」 「今は連れて行けません。早く出ましょう。」 父親は半ば無理矢理に兄から引き離された。
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