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その日、おれは久々に蛇骨がバイトしているカフェに顔を出した。
カフェの名は『Thor』。
トール、と読む。
北欧やイギリスかぶれの叔父貴らしいネーミングだ。
店へは小さな庭を横切っている小路を通って行く。
小路の両脇には、ハーブだの草花だの蔓バラだのがわんさ、と植えてある。
草木に疎いものの目には色とりどりの雑草が生えているくらいに思うだろう。
そんな緑をベースに溢れる色彩の中で、赤茶けた長髪を後ろでひとくくりにした大柄な男が悠然とホースで水やりをしていた。
「叔父貴、久しぶり」
声をかけると、叔父貴はおれを見るなり、にやっと笑った。
挨拶を返すより、「蛇骨なら裏庭だぞ」と言ってきた。
おれはそんなんじゃねーよ、としか言い返せなかった。
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