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黒い月の下で
ざ…ぁぁ……ざぁ……ぁぁ……
幾千、幾億の星空。
弱く儚い光は、集まれば鮮やかな彩りとなり。
他に輝く物が無ければ、それは夜空を彩光の天蓋に変える。
ましてや、輝きを対比させる物の無い砂漠では、対比するべき明かりもなく。
夜空本来の色…淡い群青、暗い青が一面に広がり、気を抜けば星の海に落ちてしまうとさえ思える。
…ざ…ぁ……ざぁぁ…ぁぁ……
砂丘の上を、風が走る。
細かな砂粒を運び、数さえ分からない砂丘を少しずつ、少しずつ形を変えて。
灼熱の昼の名残を静め、
凍える夜の気配を運び。
名の無い楽器のように…
…遠い遠い、海原にも似た音を奏で続ける。
「…悪く、ないね」
何処までも…何処までもひっそりした夜に贈られた賛辞。
砂と風の歌を聞きながら、砂丘に寝転がり。
昇り行く月の黒い輝きを愛でながら。
「…うん、悪くない」
…誰にともなく、確かめるように。
酒杯を器用に口に運んで。
もう一度つぶやき、
…笑った。
ざ…ぁぁ……ざぁ……ぁぁ……
風が走る…風が笑う。
…何時までも続きそうな、音のある静寂。
…砂丘の向こうで、光が弾けたのはその時だった。
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