黒い月の下で

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閃光。 夜を切り裂く小さな火が、風より早く、遠く、遠く。 星の夜に半ば同化した獲物をかすめて砂を散らす。 「ははっ!コイツぁとんだ不良品だぜ!」 おどけた声に、どっと湧いた笑い。 仕入れたばかりの値の張る玩具は、予想と銃工師ガンスミスの口上をあっさり裏切る出来映えだった。 燃える砂… 火薬の爆圧を利用して、親指の先ほどの鉄の玉を打ち出す。 銃とは、単純に言えばそれだけの仕組みで出来ている。 銃口から弾丸と火薬を落とし、専用の棒で突き固め、次に引き金のすぐ前にある撃鉄を起こし、その下にある火蓋を開き、火皿がある薬室に火薬を注いでから火蓋を閉める。 …この一連の動作を行わなければ使用出来ない実に面倒な玩具は、同じ飛び道具の弓矢とは異なり、少々の訓練で効力を期待出来るという利点がある。 その上、単純な威力は弓矢の比にならず、砂ザメの硬い皮膚を撃ち抜く事さえ出来た。 再装填に掛かる時間を考えれば、使えるのは一度切りでしかないが。 それでもこの砂漠では… <砂の國>と称される、人の手がほとんど入っていない砂の異境では、必需品とも言うべき武器だった。
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