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「待ってたよ、授業が終わってからずっと。
だけどなかなか来ないから、探しに来たんじゃないか」
下がる俺を笑顔の皇にぃが一歩、また一歩と追い詰めてくれる。
確かに教室でふてくされていた俺が悪いのかも知れない。
生徒会室に行かなかったことで心配をかけたのかも知れない。
だけど!
なんでここまで心配されなきゃならねぇんだよ!
俺はか弱い乙女じゃねぇ、13歳とはいえ、立派な男だ!
『おい、お前が望むなら俺は力を貸すと言っているだろ?』
この状況を楽しんでいるかのような声は、俺が抱く本から聞こえてきた。
いつの間にか姿は見えなくなっているが、間違いなくこの本から声がする。
『俺さえ使えば、あのニイちゃんと互角なやりとりが出来るかもな』
それはまるで悪魔の囁きのように、俺の耳に入ってきていた。
皇にぃと互角なやりとり。
それだけで凄く魅力的だが、この場合はそれ以上に――、
「ごめん、皇にぃ」
小さな声で謝ると、窓の縁に腰をかける。そしてそのまま、体重を後ろにかけた。
「凌っ!?」
慌てふためく皇にぃの声を聞きながら、俺は胸に抱いた本に静かに声をかける。
なぜだか、俺は恐ろしいくらい冷静だった。
魔法の使えない俺が、教室の窓から落ちたんだ。
普通なら、焦る。
「シキ、俺に力を貸せ」
だけどこの魔道書があるからか、平気だった。
『ああ、俺の力のすべてはお前のものだ。凌』
渦を巻く風に身体を預けて、遠くなる皇にぃの声に目を閉じた。
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