はじまりの前の物語

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此所は歪みの国 主を無くした静まりの国 赤い海の砂浜に2つの影 穏やかに、寄りて引く波 「ねぇチェシャ猫」 「なんだいシロウサギ」 「僕…最近、おかしいんだ」 「昔からオカシイよ」 「…君に言われたくないよ」 他愛ない会話。 でも何かがいつもと違った。 「体の中に奇妙な感情が溢れているんだ」 「それは僕らのアリスの…」 「歪み。そうだよ」 「………」 猫は黙り込んだ。 僕らは彼女の、アリスの歪みを癒す…吸い取る存在。 それが悪化すると言う事は、近々彼女に『悪い出来事』がおこる。 シロウサギはどんな時も彼女のそばに居た。良き友人として『人間』になりすまし…アリスを歪みから支えていた。 それが…仇となったらしい。 膨れ上がった『歪み』にシロウサギは犯され―― 猫はフードの下の誰にも見えない眉をひそめた。 「僕はもう『歪み』に呑まれかけている。近々…僕自身が僕を動かせなくなるだろう」 「それをなんで僕に言うんだい?」 少し間を開け相変わらずのにんまり顔で猫は答える。 「君はアリスを『導く者』。真実へも偽りへも…彼女が望む場所へ」 「………嫌な役割だね」
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