はじまりの前の物語

3/4
前へ
/10ページ
次へ
返答にシロウサギは真紅の目を細めて笑った。 「君に、お願いがあるんだ。アリスを…僕の代わりに…守って下さい。守るはずの僕から…」 そしてアリスを導いて下さい 「……………」 「これは僕からの最初で最後のお願いです。僕らのアリスの為にも…。彼女は望んでいる。君を………求めて居るだろう」 シロウサギは猫を切なげに見つめ、微笑んだ。 これが最後の彼の微笑み。 「シロウサギ……君が、そしてアリスが望むなら」 猫はにんまり顔で彼に笑む。 シロウサギの頬を一つの滴が流れ 次の瞬間 彼は消えた。 遥か彼方のアリスの元へ 優しくお人好しのシロウサギは最後に魔法をかけた。 余りに鮮烈な『出来事』を忘れさせる魔法。記憶を歪ませ歪みの国へ誘う魔法。 彼なりの優しさなのだろうが、猫にはただのお節介にしか思えない、秘密の魔法。 そしてシロウサギの言ったとおり、アリスは無意識ながら僕らに真実への導きを求めた。きこえないけど聞こえる。猫は耳がいいから。 あぁ 泣いている 僕らのアリスが 「アリス…」 僕らのアリス 君が望むなら… 僕は君を連れていくよ 再び歪みの国へ 真実の場所へ
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加