第②章・旅立ちの朝

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第②章・旅立ちの朝

「あなたには自分の存在の本当の意味に気付く時が訪れます…。そして決断をしなければなりません…。」突然現れた女性らしき光の影が語りかけた。 「あなたはいったい…」そぅ言いかけたアトスはいつの間にか目を覚ましていたようだ。 開けたままの窓から柔らかな光が注ぐ。夜は明けていた。日の光の眩しさに何度も瞬きしているアトスの耳にトントンと何かを切る音がする。母が朝食の仕度をしているようだ。 {あの夢はいったい…。僕にいったいなにが…。} 「アトス!いつまで寝てる気だい?」物思いにふけるアトスに階下から母が吠え…言った。 母の声に眠気が吹き飛んだアトスは転がるように階段を降りて、食卓につく。 「…か、母さん…なにこれ…」机の上に広がる状況に困惑したアトスは思わず母に尋ねた。アトスの目の前にあるのは…肉・魚・サラダ・パン・牛乳・フルーツ…他にも机の上に所狭しと並べられていた。 「大事な日だから力つけさせなきゃと思ってちょいと豪華にと思ったら作りすぎちまったんだよ」笑いながら言う母にアトスは笑う?しかなかった。 {いくらなんでも朝からこれは無理だよ…。} 当然の如く朝食を残しまくったアトスは苦しそうに部屋に戻った。 布地で動きやすい衣服を纏い、日よけの帽子をかぶる。遠目から見たら冒険家や旅の商人と言った風貌である。 太陽が顔を出してまだそれほど経っていない。試験が始まるのは太陽が1番高く昇った時なのでまだかなり時間があるが、いかんせんアトスの村は王都から離れた森の中。とても裕福とは言えないアトスの家にとって、馬車はおろかそもそもこの村にない馬を借りる余裕もない。よって昼から始まる試験に間に合うために朝出発しないといけなかった。 「王都の人間がうらやましいよ…。」そう愚痴ったが、この森が好きなアトスにとっては王都という場所はそれほど魅力的には感じられなかった。 「これ持っていきなさい。」不意に現れた母に少し驚いたアトスであるが、母が手に持つ物を見て納得した。手渡されたいかにもな布に包まれた物…明らかに弁当である。 無言の返事をしてそれを鞄に詰め、母の横を抜けて階段を降りた。 「そいじゃあもう行くよ。」 「頑張ってくるんだよ。無理なんてしちゃだめよ。」 不意に見え隠れした母の優しさを感じたアトスは穏やかな気持ちで我が家をあとにした。
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