プロローグ

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「いいから乗れよ。俺に任せときな。」  ルカはそう言ってアーネを強引に助手席へ放り込む。彼はネルドキア帝国に在籍する軍人でありアーネの幼なじみだ。アーネはそんな彼の言葉に微笑みながら頷く。こんな平和な日々が人類全てに訪れる日を願いつつ、彼女は走り出す車の中でもう一度空を見上げた。コロニーに造られた疑似空域をに浮かぶ人工の月は円形に輝いている。 「身分証出しとけよ。俺が行けるのは入口までだ。入口からはクラウス連邦の敷地だからな。」  にこやかな声と裏腹にルカの顔は厳しく見えた。彼の言葉に従い身分証を手に出し見つめる。クラウス連邦所属第913実験部隊オルテンシア、登録番号8026193アーネ・シュトレナーゼ、階級少尉……。その薄いカードに自分を証明出来るものが刻んであることにいささか自嘲して前を見る。ルカはかなり飛ばして運転してくれたらしく、基地まで既に数分の距離まで来ていた。流れる景色は静かでこれから戦場へ行くなど考えられないと言ったほどだ。そんなことを考えている内に車は止まった。窓から外を見るとクラウス連邦の敷地への入口にある検問所が見えた。アーネは無言で車から降りる。同じ様にルカも車から降りて2人は対面した。 「ルカ…死ぬんじゃないわよ。」 「……お前もなアーネ。」  その言葉を最後に互いに違う道を行く。背後から聞こえる排気音に振り向くことなくアーネは検問所に向かう。 「アーネ・シュトレナーゼただいま戻りました。」  検問所の兵士は身分証を見て解析すると直ぐに通してくれた。これから約30分後にアーネが乗る船…新造戦艦モイラは出航する。目指すのはディーバという地球外生命体の旅団に襲われているコロニーだ。かつてはアメリカ合衆国として栄えていた国も今ではアルグネストと名を変えて最大級のコロニーにいる。そこが陥落する可能性があるということで同盟国のクラウス連邦にお呼びがかかったのだ。 「父さん…母さん…イリア、必ず皆の仇とるからね……。」  アーネは独白しながら戦艦モイラへ向かう入口へ走って行く。人類の抗いが始まった……。
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