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「芹架…」
「タケル、心配しないで。私なら大丈夫。嵐士の事は気にしなくていいから。タケルはタケルのやるべき事をやればいい。ねっ」
俯いたままのタケルは、掴んだ腕を離そうとしなかった。
「本当に大丈夫か?」
「うん。大丈夫。ほら、早く行かないと花南さんに怒られちゃうよ」
私の視界に入っている花南さんは、明らかにイラついていた。
「じゃ、行くから。何かあったらすぐ連絡しろよ」
「判った。行ってらっしゃい」
そう言うとタケルは、渋々掴んでいた手を放し、花南さんの元へと歩いて行った。
タケルは後ろを振り返る事なく車に乗り込んだ。
私は大きく深呼吸をして、嵐士のいる事務所へと戻った。
「お帰りなさい。芹架さん」
嵐士の言葉を無視して、
「そろそろ、私達も出ないと。あなたのオーディションがあるんだから」
「芹架さん忘れないで下さい。俺の目的を。じゃ行きましょうか」
(この子、何なの?何でタケルなの?)
嵐士は自然に私の手を取っていた。
「あの、手離してくれない?」
「いいじゃないですか。別に」
笑顔の裏に隠された嵐士の本音を考えれば考える程、判らなくなっていた。
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