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千里は私が唯一気を許して話せる相手、ネコをかぶって話さなくていいから凄く楽なのだ。
「性格悪いよね」
何て笑いながら千里はよく言う、でも千里だからこそそんな事を言われても全然気にならない。
それに自覚はある。
「帰ろうか」
言いながらすでに千里は私の前を歩き始めた。
歩幅の違う千里の隣に並ぶと私は千里に歩幅を合わせてゆっくりと歩く。
校門まで来ると目の前に一つのサッカーボールが転がって来た。
私は丁寧な仕草でボールを拾い上げ走ってきた男の子に差し出す。
「はい、練習大変だね頑張ってね?」
笑顔付きで言えば男子生徒は目に解るほどに顔を真っ赤にして言葉にならない言葉を叫んで校庭へと走って帰って行った。
「笑顔の安売りだね」
さう言いながら千里は又笑い始めた。
今日は学校が早く終わったのもあって千里のバイト時間まで近くの喫茶店で時間をつぶして家へと足を運んだ。
家まで数メートルの距離まで帰った所でトラックに気付く。
更に近付くとどうも引っ越しのトラックみたいで。
最近引っ越す話しは聞いていないし、空き家と言えば12年前に出来た鏡宮の家で…そこまで考えて私の足は走りだしていた。
トラックを越えて覗き込んだ先に汗を流して立ってていたのは、12年も立って変わってはいたけど見知った顔。
「ぁっ…」
喜びのあまり声になりきらなかった。
私に気付いたのかその人は振り向き私をみる。
「おや、近所の方かな?私は鏡宮秀二(きょうみやしゅうじ)と、言います12年前に引っ越したんですけどね帰って来まして、こんなに可愛いお嬢さんのご近所になれるなんて嬉しいですね」
なんて、笑いながら言う男性を奥さんの「香代(かよ)」さんがチラリと睨む。
「お帰りなさい!要のお父さんお母さん!私だよ胡桃だよっ!」
「あらっ!」
要のお母さんが口を押さえて驚く。
次に嬉しそうに笑う、昔と変わらない優しい笑顔。
「あらあら、随分とべっぴんさんになっちゃって!懐かしいね~」
要のお母さんは私の髪をワシャワシャと撫でてきたけど、セット何てもう気にしていられない。
「あの…要は?」
期待で胸が一杯だった。
「あぁ、要なら自分の荷物だけ持って自分の部屋にいっちまたよ」
要のお父さんの返事を聞いて私は一礼すると「お邪魔します」と言い、昔よく遊んだ要の部屋を目指した。「大丈夫かね?」
そんな要のお母さんの言葉が聴こえた気がしたけど、気になんてならなかった。
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