プロローグ

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僕はその日、かつてない絶望と、後悔を味わった。 彼女と遅くまで遊んだ翌日、彼女は学校へ来なかった。 何があったのか少し不安になり、担任へ訊いてみるとまず衝撃がはしる。 担任が“昨晩交通事故にあった”と答えたからだ。 僕は彼女の入院している病院を担任から聞き出すと教室を飛び出した。 病院へ向かう間、頭の中では“どうか嘘であって欲しい”と繰り返していたが、次第に病院が近付くにつれ“もしかしたら検査入院かもしれない”“ちょっと当てられただけなのかもしれない”という根拠のない、自分に都合のいい想像だけが膨らんでいた。 それは不安に押し潰されそうになる心に自己防衛が働いていたのだろう。 病室へ辿り着いた時、頭は真っ白になった。 包帯だらけで何本ものチューブを身体に通され、ベッドに横たわった痛々しい彼女の横にはただ静かに、弱々しく心電図の音が響き、母親のすすり泣く声が病室に木霊していた。 彼女の父親は僕を責めた。 だが僕の心にはもっと大きく鳴り響く苦痛の鐘が鳴り、父親の声は聞こえていなかった。 “あの時、ちゃんと家まで送っていれば!!” “もう少し早く帰っていれば!!” 無意味な後悔、いや、後悔自体が無意味なものだと解っていながら頭にはそれしか浮かばない。 “何故彼女がこんな目に合わなければならないのだろうか?” “僕が事故にあえば良かったんだ” 後悔の思いは次第に自分への呪いに変わっていった。 それを救ってくれたのは奇しくも彼女の母親だった。 「後悔したって、自分を責めたって何も始まらないし解決しない。 この子の目が覚めた時、あなたは側で笑ってあげて」 その言葉にどれだけ救われた事か。 しかし三ヶ月後、新たな絶望が僕を襲った。 担当医師の診断ではもう命に別状は無いらしい。 だが、意識が回復する兆しが見えないというのだ。 つまり植物状態である。 医師は最後にこう加えた。 奇跡を信じるしかない、と。
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