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そうして二人がようやく目的地にたどり着いた頃には、すでに形の良い月がその漆黒の夜空にポッカリと姿を浮かべる
そんな刻であった
暗闇の中、ボォッと浮かび上がる提灯の灯りと、何やら真新しい看板
羽衣はその手前に立ちはだかりそれを見るや否や只々、絶句するばかり……。
自分は、なんて安易な約束をしてしまったのだろうと、もう一度門横に掲げられた表札を見上げて、最早後悔ばかりが先に立つ
「あ……あんさん、壬生狼(ミブロ)やったん……?」
震える唇でやっとそう言って、
どうにか落ち着こうと試みるのだが、余りの驚きようにそれは到底無理な話し
そして、想像以上にわなわなと明らかな動揺を見せてくれる羽衣に、
連れて来た甲斐があった……と
思いながらも、込み上がる笑いをおくびにも出さぬよう努めて
沖田は「あれっ?言ってませんでしたっけぇ?」そんな白々しい嘘を吐いた。
彼女が思わず、叫ばずにいられなかった『ミブロ』―――――
その正式名称は、壬生浪士組。
新選組が、その名を京都守護職である松平候から賜る以前に
自らで名乗っていた呼び名である
江戸から遙々、将軍警護の呼び掛けにより集まり、彼等がまず最初に屯所を構えたのが、ここ『壬生村』と云う地であった
その為単純だが、壬生村に住まう浪士組という理由で簡単に名付けられた
だがこれからの期待に胸膨らます彼等と反して、京の民衆は江戸から突然やってきたミテクレ悪い彼等を、はなから歓迎などはしていない
新選組初代筆頭局長芹沢 鴨
(セリザワカモ)彼は非常に気性が荒く
やることと言ったら商家を脅し金を出させたり、意に添わない者があれば、処構わず暴れ狂う暴挙振り
そして仕舞いには、金を出し渋った商家の蔵に火を放ち、焼き払ってしまうという重大な失態までおかすに至る
この時代、建築物は間隔もあけずに処狭しと建ち並んでおり、一度火が付いてしまえば瞬く間に隣家から隣家へと火の粉が飛び移ってゆく
それを知りながら芹沢は事に及んだのだ
本来、京の町を守る事が主である筈の浪士組がそれをやってのけたとなれば、
何処の誰が、彼等の事を快く受け入れてくれると言うのだろうか
無論、言うまでもなく他郷嫌いな京人の風習も手伝って、程なく彼等は忌み嫌われる存在へとなっていったのである
そしてそんな彼等を壬生の狼
“壬生狼”(ミブロ)と称して皆蔑んだ
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