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羽衣は正直悩んだ―――――
生まれてこの方、これまでに無い程の危機的状況
先にも述べた通り、自らの命など惜しくは無い
いやむしろ、自分は誰かが殺してくれるのをひたすらに待ち続けているようにさえ思う
決して死ぬのは恐くない―――
だが、辱(ハズカシ)めを受けるのは堪らないと思う
矛盾している…………
この目も、この手も自らの意志で何度、朱色に染まったかわからない
けど、どうせ死ぬなら――――
(あん人の温もりを抱えたままで死にたいんや……)
表札を見上げたままの瞳は、
鏡で確認せずとも小刻みに揺れているだろう
此処は野蛮人の巣窟だと皆、
口を揃えて豪語する
気の荒い、道徳も武士道もまるで無い、威張りくさった男達が住む寝床
自然と握り締めた手の平がじんわり汗ばんで、更に不快感が胃のあたりからせり上がってくる
無論羽衣自身、自らの腕に自信がないわけではない。
実戦もそこらの男より、遥かに積んできた
だが、いくら何でもやはり多勢に無勢
女一人で大の男相手に挑むのは
少々、骨が折れると言えた
でもだからと言って逃げようにも、それすら叶わない事を羽衣は何となくわかってしまう自分が嫌だ。と感じてしまう
見る見るうちに青ざめていく彼女をよそに、一方の沖田は実に涼しげな眼差しを変える事はない
そしてその直後、威圧的な面前の門をすんなりくぐりながら、
入りますよっ?
そう軽く振り返ると、身を硬くし尚も渋る羽衣の片手を半ば無理矢理に取って
存外、軽い体を引きづるようにして、門をくぐらせたのだった
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