――雪華…セッカ…

25/33
前へ
/109ページ
次へ
   背に、沖田の手を添えられたまま、羽衣は最早後退することもできずに中へと誘われた “為す術無く”とはまさにこの事 薄暗い庭を縫うようにして、 屋敷の奥へ奥へと連行されてゆく 極限までに意識を研ぎ澄ませ、なんとか打開策を捻っていた彼女ではあったが 何処からともなく聴こええてくる竹刀のぶつかり合う高音と、 野太い男達の勇んだ怒鳴り声がやけに耳の中へと木霊した 更に、敷地内に脚を踏み入れた時から感じる……舐めるような好奇な視線 すれ違う人、すれ違う人……皆眼球がこぼれんばかりの勢いでこの身に穴が開きそうなほどに見つめてくる 羽衣はそれが居心地悪いやら これから自分を待ち受けるものが恐ろしいやらで…… ただただ震えて顔をあげることすらもできずにいた。 ここは、泣く子も黙る大悪党 新選組屯所内――――――― 少なくとも、彼女はそうだと認識している だが、それも“大悪党”を除けば、あながち間違いでも無い いや―――芹沢が生きていた時代であれば“大悪党”という言葉も、民衆からすれば間違いでは無いだろう 血気盛んな者達が、日々 稽古に勤み寝食をともにする処 本来、女など入ることのできない聖域であるし、無論――― 女などに出入りされては、隊士達の士気が下がりかねない。と鬼の副長は吠えるだろう…… だがそんな暗黙の了解が其処にはある中、易々とそれを飛び越えてしまう人物が沖田だ しかも、皆の注目を集めるのはそればかりでは無い 剣術馬鹿であるあの沖田に 女には興味がないと豪語する彼に手を引かれ…… 気恥ずかしそうにうつ向く包ましやかな女性の姿を隊士達が自然と、目で追ってしまうのも必然的?好奇心からか無理も無い…… 沖田の固くなな心を掴んだ女性とは、どのような人物なのかっ それを確かめるべく自然と、 一心に注目が羽衣へと集まっていた また少なくとも、周りの者達がそう、『勘違い』するべき要素が、そこには揃いすぎていたのだから……。 ・
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2251人が本棚に入れています
本棚に追加